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* * * * * * * * * *(4)初動負荷の解説
スポーツや日常生活の様々な動作に 初動負荷のメカニズムがありますが、私にとって説明が簡便な 野球の投球動作の模式図をあげて説明し、日常生活の初動負荷動作についても後述します。
(4)-1 投球動作の初動負荷
(4)-1-1 前提条件など
●動作の選定
投球モーションの内、cocking phase(arm cocking) と言われる ボール・リリース前の動作があります。
このフェーズにおける肩関節の「肩関節 水平屈曲」「肩関節 内旋」の二つの運動に着目し、そこに働く筋群を主働筋とした 単純化したモデルで説明します。
●モデル化
ダルビッシュ有 選手の動作を参考とさせていただき、モデル化しました。(頭部は私に置き換えました…笑)
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●肩関節 水平屈曲
◆主働筋 … 三角筋前部、大胸筋など。
◆拮抗筋 … 三角筋後部、小円筋など。
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(もちろん このフェーズでは 肩関節以外に 体幹の筋肉なども同方向に働いています)
●肩関節 内旋
◆主働筋 … 肩甲下筋、大円筋など。
◆拮抗筋 … 棘下筋、小円筋など。
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(4)-1-2 肩関節 水平屈曲
(Animated GIF)
投球モーションと模式図です。 各フェーズにつき 以下に説明します。
① 弛緩[wind up]
【 モデル(模式図)の説明 】
● 関節における凹側の骨(関節窩 。カーブを描いた形の方)の周辺に、拮抗する筋群が付着しているのを表した単純化モデルです。
(実際の三角筋前部・大胸筋などの主働筋や 三角筋後部・小円筋などの拮抗筋の配置は このように単純ではありません)
● ほとんどの骨格筋は、上図のように末端で腱の状態になって骨に付着します。
● この wind up において、ボール・グラブ・前腕の質量を持ち上げる 鉛直方向の筋力など、様々な方向の応力が肩関節には作用していますが、水平屈曲運動方向に限定して 主働筋が「弛緩」の状態としています。
● そして、wind up では、下半身の挙動に対して 頭部や上半身を静態させる必要があるので、主働筋・拮抗筋 共に 運動方向の収縮が皆無ではありませんが、動きがあるフェーズと比較して「弛緩」と近似しています。
この運動部位と運動方向を絞った 単純化モデルの考え方は、以降、および 次項の「(4)-1-2 肩関節 内旋」でも同様です。
② 伸張
take back 動作をするために、拮抗筋が短縮し、主働筋は伸張状態となる。
③ 反射の起こるポジション[early cocking]
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前述の定義でいう「反射の起こるポジション」であり、水平伸展・水平屈曲 運動の動作反転位置です。
伸張性収縮から短縮性収縮 へ切り替わる様子を示しています。
④ 収縮・短縮【パワーの増大】
主働筋の短縮スピードが最大となり、前述の定義でいう「パワーの増大」が起こるフェーズです。
⑤ 短縮・減速
前項の短縮スピードのピークを終えて減速するフェーズです。
⑥ 肩関節 水平屈曲の初動(初動フェーズ)について
上記③項の伸張性収縮から短縮性収縮へ切り替わる期間が、本水平屈曲運動における いわゆる「初動(初動フェーズ)」と考えられ、関節運動範囲でいうと 数十deg未満でしょう(下図参照)(人によっては さらに小さい範囲の場合もあると想像します)。
(4)-1-3 肩関節 内旋
肩関節 内旋運動については、「反射の起こるポジション」と「収縮・短縮[acceleration]」のみ説明します。
① 反射の起こるポジション[late cocking]
外旋・内旋運動の動作反転位置です。
② 収縮・短縮[acceleration]【パワーの増大】
「パワーの増大」が起こるフェーズです。
(4)-2 マシンによる初動負荷の実現
定義にある「弛緩―伸張―短縮」のリズムを、初動負荷マシンは回転カム機構を用いて模擬しているとのことですが、その様式と 一般のトレーニング・マシンとの比較を以下に述べます。
(4)-2-1 初動負荷マシン
もちろん、身体動作を完全に模擬できているわけではありませんが、初動負荷マシンでトレーニングすることにより、以下のように 実際に則したトレーニングができるということです。
(a)take back 初期の「弛緩」「伸張」のフェーズでは 主働筋に対するマシン負荷が小さく、主働筋伸張の方向に他動的に誘導され、
(b)初動フェーズでは 能力に応じて設定した負荷がかかり、
(c)「パワーの増大」以降では マシン負荷が適切に減少(漸減)する。
(4)-2-2 一般的マシンとの比較
初動負荷マシンとの比較例として、トレーニング・ジムに必ずといってもいいほど設置されている、肩関節 水平屈曲の筋肉を鍛える一般的マシンを挙げて説明します。
このマシンは、start position から finish position まで、角度範囲 100deg超 にわたり 一定の負荷が かかります(アイソトニックトレーニング)。
ただし、このマシンが悪いということではなく、このような終始一定の筋力を発揮しなければいけない競技にとっては有効です。
しかしながら、投球動作の「肩関節 水平屈曲」の場合、角度 数十deg未満 の 初動フェーズ以外は、加速する動作やスピーディな動作をする必要があり、同一負荷をかけるトレーニングが適していないことがわかります。
(4)-3 初動負荷の解説の補足
上述のマシン・トレーニングとは別に、投手のリハビリでチューブ・トレーニングが実施される場合があります。
finish position で負荷が大きくなる、いわゆる「終動負荷トレーニング」と呼ばれるもので 初動負荷と正反対であり、このトレーニングにおいても 運動方向や姿勢などが対象となる競技に適しているか 要注意です。
全てのスピードを要する運動のためのトレーニングにおいては、適切な「関節角度 - 負荷 特性」が重要
だということになります。
そして、初動負荷理論を感覚的な言葉で表現すると、
●関節を傷めない程度に 可動域の端まで動かして、
●筋や腱が伸びるのを感じ、
●それらが伸ばされた反射(反動 )を使って 逆方向に素早く動かす。
●初動フェーズのみ負荷が比較的大きい動作。
という感じになります。
加えて、
「初動負荷理論」とは、その名称のままの初動フェーズだけが対象ではなく、初動フェーズに加えて その前後の期間も含めた負荷や動作様式の考え
であることがわかります。
「初動負荷理論による野球トレーニング革命」という小山裕史氏の書籍表紙に、この cocking phase の画像が使われています。
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宝塚市 かみたに接骨院(整骨院)さんの投稿 2019年5月28日火曜日
【 初動負荷理論による野球トレーニング革命 小山 裕史 氏 著 】
cocking phase における動作が、初動負荷理論を端的に表していると おっしゃりたいのかもしれません。
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