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* * * * *→ (5)-4 肩関節・股関節へのアプローチ.筋トレではない
* * * * *(5)-5 効果が期待できる部位/できない部位、イチローさんの例
(5)初動負荷理論のメリット・デメリット
前述のように、初動負荷トレーニングの効果として、実際の関節の挙動に応じたトレーニングが実現できることがありますが、それ以外のメリット・デメリットについて述べます。
(5)-1 共縮の改善
(5)-1 共縮の改善
定義文にある、共縮を防ぐ仕組みを説明します。
①共縮のメカニズム
投球動作のような take back を含んだ運動において、normal な挙動と 共縮が起こった場合の概念図を示します。
[Animated GIF][※一巡目(Round1) と 二巡目(Round2) は注釈が無いだけで 同じです]
誇張した絵ですが、図のように 関節の歪みが生じて、動きが悪くなったり、軟部組織や軟骨を傷める可能性があることを示しています。
ただ、共縮が悪いというわけではなく、共縮位置で動かさない競技や、アイソメトリック・トレーニングなどの運動であれば 問題ありません。
脳性マヒ患者の ぎこちない動作に見られたり、 投球動作などで、 follow through の時に肩が痛いという人は、これに該当する場合がけっこうあります。
②初動負荷マシンによる共縮の改善
共縮というのは、用語説明のように 主働筋の収縮と同時に拮抗筋も収縮することですので、逆に考えると、(病的な場合を除いて)
主働筋が弛緩すれば拮抗筋も弛緩します。
初動負荷マシンでは、反射(反動)を利用した収縮であり、かつ 初動フェーズ以降は負荷が減少するので、
主働筋の 「りきみ」が少なく、素早く動くことに重点を置いた、意識的には弛緩に近い感覚です。
色々なサイトで、「初動負荷トレーニングは筋トレではない」と言われるのが その感覚を端的に表していると思います。
共縮傾向のある関節について、一般的マシンとの挙動比較を示します。
[Animated GIF][※反射の起こるフェーズ以降の挙動]
モデルでは、初動負荷マシンにより 一巡目(Round1) より二巡目(Round2) 、二巡目(Round2) より三巡目(Round3) の方が改善していることを表しており、それに対して一般マシンでは改善が望めないことを示しています。
簡略化のため 三巡(Round3)で改善するように示していますが、後述の習熟の面も含めて 改善スピードは人それぞれ違います。
ここからは私の経験と憶測でしかないのですが、
初動負荷マシンを利用し、「初動フェーズ以外は拮抗筋の力を抜く」という運動習慣を繰り返すことにより、身体に対して 相反神経支配(神経・筋機能)の再教育ができ 共縮が改善する
と考えます。
(5)-2 関節の歪みの改善
解剖学的肢位からの変位である 関節の歪み・変形は、背骨(脊椎)・肩・肘・手首・股関節・膝・足首など、様々な部位に起こります。
その中で、俗に言う「巻き肩」「いかり肩」が比較的わかりやすいので 例に挙げて説明します。
長期間の生活習慣や癖により、相反関係にある筋肉の一方が拘縮し(弛緩し難くなり)、関節が標準的位置にない状態です。
もちろん、筋肉以外の靭帯などが影響するケースもあります。
共縮と同様にして 初動負荷トレーニングにより拘縮状態が緩和され、歪み・変形が改善します。 (詳細は省略します)
(5)-3 日常生活での初動負荷
次に、日常生活では take back 動作が比較的少ない 高齢者にとって、何故 この初動負荷トレーニングが有効であるか説明します。
①日常生活動作での不調
年配の患者さんで、次のような症状を訴える人がおられます。
●朝起きて 一歩目を踏み出す時 股関節・膝・足首が痛い(二歩目以降は大丈夫)。
●手をついて 上半身を起こす時 肩・肘・手首が痛い(下図参照)。
(※ただし、関節滑液などの器質的問題があるケースは除きます)
(Animated GIF)
静止状態(速度0 ゼロの状態)から 動き(速度)を持たせるまでに必要な力は、その作用時間によりますが、物理的に比較的大きな応力が発生します。
私が元電気系エンジニアなので ちょっと難解な話をしますが、機械とか制御系においては、0 ゼロからの急峻な力/物理量などの伝達(ステップ入力)がある場合、その間に「一次遅れ要素」「Low Pass Filter」など というのを設けて、急激な過渡的荷重やオーバーシュート等が伝達されないように、滑らかに物理量が伝わるようにして、制御系を壊れないようにしたり 安定化させたりします。
②正常動作メカニズム
前述の「手をついて 上半身を起こす」動作の肘関節に着目して解説します。
次に述べるメカニズムは 私の想像であり科学的根拠はありません。 前述の動作開始時のステップ入力に対して関節などを守るため、人体に何らかの緩衝機能があるとした仮説です。
(Animated GIF)
関節可動域の端まで take back する運動ではないので、投球動作のような伸張反射が起きているわけではありませんが、動作開始時に等尺性収縮が起きてから短縮性収縮に切り替わるという「遅れ要素」があると想像しました。
起き上がる時に「ふんっ」とか「ふっ」と、一息分、力を入れてから動かすイメージです。
③不良動作メカニズム
前述の仮説にたって、「遅れ要素」が無い場合の不良モデルとの比較を示します。
(Animated GIF)
不良のケースでは、拮抗筋の準備がまだできていないまま、主働筋を短縮してしまうという考えです。
前述の「初動負荷理論を感覚的な言葉で表現」で「筋や腱が伸びるのを感じ」てから逆方向(主働筋短縮方向) へ動かすと述べました。
それと同様に、日常生活でも行う 速度0の静止状態からの動作では、次のことが大事だと言えます。
筋肉が弛緩した たるんだ状態から いきなり短縮するのではなく、「筋や腱が張る/伸びるのを感じ」てから動作する、等尺性収縮をひとつ入れてから動く、という習慣を身につける。
初動負荷トレーニングを積み重ねることにより この習慣も獲得できると予想されますので、高齢者にも初動負荷トレーニングが有効であることが説明できます。 (※ただし 私の仮説が前提ではありますが)
そして、関節の痛みなどが現れないとしても、
「鞄を持ち上げる」「しゃがんだ状態から立ち上がる」「段差/階段を踏み上がる」など、多くの日常動作に「遅れ要素」が有効であると考えます。
(5)-4 肩関節・股関節へのアプローチ.筋トレではない
2019年2月、テレビ番組「情熱大陸」でサッカーの堂安律選手が「サッカーはケツ(※股関節)でやるもの」とおっしゃっており、そのトレーニング風景が放映されていました。
スポーツや身体運動のパフォーマンスにおいて、肩関節・股関節の特性がおよぼす影響は大きいです。
●肩関節
肩関節の歪み によって上腕のシビレや 肘関節・上肢全般に負担がかかる。
●肩甲骨
肩関節の構成要素である肩甲骨の可動域が小さいと 背中・首の緊張や上肢に影響をおよぼす。
●股関節
股関節の柔軟性が劣っていたり 歪みがあると 腰痛や坐骨神経領域の問題が生じやすいし 膝・骨盤・腰への負担が増す。
●関節の傷害
関節そのものの不調によって、関節痛・五十肩・鼠径部痛(グロインペイン症候群。 Groin pain syndrome )などを発症する。
すなわち、
肩関節・股関節の「歪み・変形」や「可動域・柔軟性」を適切に改善すると、関節そのものの傷害や、周辺の負担・不調が改善し、パフォーマンスが向上します。
※この点につき 次のブログにも書いていますので、よろしかったら ご参照ください。
本投稿 冒頭(page1)の動画を見ていただくと おわかりのように、
●初動負荷マシンは 肩関節・股関節を重点的に動かしますので、スポーツ傷害やパフォーマンス向上に適しています。
●そして、いわゆる 筋肉をたくましく太くするトレーニングではなく、上記の「歪み・変形」「可動域・柔軟性」を改善するものです。
ワールドウイング社の初動負荷理論の説明にも、次のように述べられています。
【 身体根幹部の筋群で力を発揮、その筋力から出た力をうまく使って手足などの末端部を動かせばよいのです。
末端部に位置する腕や膝、フクラハギの筋肉はリラックスが必要で、できる限り余計な張力を発揮させたくありません。
この動作形態が初動負荷理論の特徴です。
末端部の筋肉が大きく出力すれば、せっかく身体根幹部で作り出した力が生かされず、むしろ動きが硬くなり、加速度が制限されます。】
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