他の関連keyword …
“腰仙椎アライメント”
“仙骨前傾”
“Anterior Pelvis Tilt”
目次
(2)-1 骨盤前傾/後傾に作用する筋
(2)-2 考察A … 日常生活動作は骨盤前傾を誘発する
(2)-3 考察B … 骨盤前傾に働く筋の硬さ, 洋式生活
(2)-4 考察C … 女性に多い骨盤前傾
(3)-1 股関節の可動域
(3)-2 メリット … 爪先接地や後方スウィングしやすい
(3)-3 活用例 … プロ野球 山本由伸選手
(3)-4 活用例 … プロ野球 村上宗隆選手
(3)-5 活用例 … やり投げ 北口榛花選手
(4)-1 骨盤前傾の関連疾患
(4)-2 骨盤前傾の症状・障害・デメリット
(4)-3 アスリートの負傷・不調の例
(4)-3-1 プロ野球 山本由伸選手
(4)-3-2 プロ野球 村上宗隆選手
(4)-3-3 陸上競技 一山麻緒選手
(4)-3-4 プロ野球 ダルビッシュ有選手[*追記]
(4)-3-5 やり投げ 北口榛花選手[*追記]
(4)-3-6 けっこう多い 擬似「太もも裏の肉離れ」
(5)-1 汎用的対策
(5)-2 前提 … 身体特性の個人差
(5)-3 前提 … 人種による差異と適確なドリル
(5)-4 考察 … 骨盤前傾の採否とパラメータ
(5)-5 妊娠後期の備え
(1)まえがき
走るスポーツをハードに行なっている若い人は、その年月とともに骨盤が前傾(反り腰・腰椎前彎)してゆくケースが多く、また アスリート以外の 一般の若い女性にも多く見られます。
【 ※注記 】
ここで述べる「反り腰」「腰椎前彎 Lumbar Lordosis」とは、本来の生理的な腰椎彎曲より過度に前彎している状態とします。
(下図「normal」のように ヒトの脊椎には生理的なカーブがあり 多くの人がこの姿勢です)
そして「骨盤前傾」とは、上半身に対する 生理的 骨盤傾斜角より 過度に前傾していることとします。
さらに、アフリカ人の陸上競技アスリートには 骨盤前傾の人が多く見られますし、妊婦さんにも見られます。
逆に、骨盤後傾・腰椎後彎やストレートランバー(Straight Lumbar)となるアスリートは、走る強度が小さいか、特殊な運動やコンディショニングをしているか、傷害を抱えている人だと考えます。
【 ※注記 】
◆ 以下、「骨盤前傾・反り腰・腰椎前彎」をまとめて「骨盤前傾」と表記します。
◆ もちろん、ハードに走るアスリートでも、適確なコンディショニングをすれば生理的腰椎前彎を維持でき、過度な骨盤前傾/後傾を予防できます。
そして、骨盤前傾が過度であると 椎間関節性の腰痛などが生じると考えられています。
そこで 本投稿では、「骨盤前傾」が引き起こす腰痛やそれ以外の影響、「骨盤前傾」の原因、メリット・デメリット、対策などについて述べます。
※注記
本投稿で扱う神経障害は、糖尿病などによる全身の代謝性疾患、中毒性疾患や感染性の疾患、遺伝性などによるものを除きます。
(2)骨盤前傾の原因
骨盤前傾と 骨盤に付着する筋との相関が 先行研究で述べられていますが、骨盤前傾の原因は 一意的に結論付けられていないと思います(調べきれませんが 汗)。
その理由は、筋群の関連性などが複雑で、個人差も大きいからだからと想像します。
以下に考察を述べます。
(2)-1 骨盤前傾/後傾に作用する筋
◆ 骨盤前傾 …
大腿直筋、大腿筋膜張筋、縫工筋、脊柱起立筋、腸腰筋。
◆ 骨盤後傾 …
ハムストリング(大腿二頭筋、半膜様筋、半腱様筋)、大殿筋、腹直筋。
◆ 腰部の肢位(回旋、側屈 etc)によって骨盤前傾/後傾に作用 …
内腹斜筋、外腹斜筋。
(2)-2 考察A … 日常生活動作は骨盤前傾を誘発する
(2)-2-1 骨盤後傾筋を使う動作
前傾とは逆の、骨盤後傾に作用する 主な筋としてハムストリングがあります。
ハムストリングのトレーニングとして下記のものがありますが、普段の生活で同様の動作をすることは ほとんど無いでしょう。
(Single-leg Deadlift は「物を拾う動作」に似ているかもしれませんが)
◆ Leg Curl
◆ Nordic/Russian Hamstrings
◆ Hip Lift
◆ Single-leg Deadlift
◆ Lunge(前脚の膝屈曲角度によりハムストリングの活動性が異なる)
(出典…fitnessvolt.com)
同様に、骨盤後傾に作用する「腹直筋」の活動も 起床時の1回ぐらいで、トレーニングしない人は 生活での動作回数がわずかでしょう。
(2)-2-2 骨盤前傾筋を使う動作
スクワット(Squat)のような 椅子に座ったり 立ち上がったりする動作は、活動的な人であれば 日常生活で頻回に行います。
スクワット動作では、その姿勢にもよりますが、大腿直筋・大腿筋膜張筋・縫工筋などの 骨盤前傾に作用する筋を主に使います。
なお、骨盤後傾に作用する「大殿筋」に効かせるスクワット(尻を後方へ突き出すスクワット)も ありますが、普段の椅子の立ち座りでは あまりしない動作でしょう。
(2)-2-3 立位・歩行時のモーメント・バランス
立位や歩行の際における、「股関節中心回り」と「腰椎(L5:第5腰椎あたり)中心回り」の回転モーメントを考えます。
各筋の付着部分(↓フォント色と↑図中の矢印色と合わせています)
◆ 大腿直筋 … 下前腸骨棘、寛骨臼の後方上部の溝
◆ 大腿筋膜張筋 … 腸骨稜前部とそのすぐ下の腸骨面
◆ 縫工筋 … 上前腸骨棘とそのすぐ下の切痕部
◆ ハムストリング … 坐骨結節
◆ 大殿筋(※図中には描いていません)
◆ 腹直筋(※図中には描いていません)
以上より、ハムストリング・大殿筋・腹直筋が弱体化し 骨盤前傾筋が活性化すると、バランスが崩れて 骨盤が前傾することがわかります。
日常生活では 自然と骨盤前傾になる運動習慣を過ごしている。
(骨盤前傾/後傾に作用する筋は 大腿直筋・大腿筋膜張筋・縫工筋/ハムストリングが支配的であると考えた場合)
※注記
上記の各筋について、骨盤前傾に対する定量的な影響度が不明です。今後 必要であれば見直します。
(2)-3 考察B … 骨盤前傾に働く筋の硬さ, 洋式生活
前述の運動習慣の影響なのか、施術をしていて多い症例が 大腿直筋・大腿筋膜張筋・縫工筋が硬くなっている人です(伸張性の低下)。
前述の「骨盤前傾/後傾に作用する筋」に基づき、大腿直筋・大腿筋膜張筋・縫工筋の伸張性が低下すると骨盤前傾になる傾向があり、膝痛にもなりやすいです。
下記のブログにも書きましたが、当店では 膝痛の約25%が大腿四頭筋(大腿直筋、内側広筋、中間広筋、外側広筋)の柔軟性が原因です。
床にしゃがんだり 正座をしたりする 和式の生活をしている人は、大腿直筋・大腿筋膜張筋・縫工筋を自然に伸ばしているので 硬い人が少なく、逆の洋式生活の人に「正座をすると太ももの前面が突っ張る/ちゃんと正座できない」というケースが多いです。
(出典…いらすとや)
その一方で、和式も洋式も 股関節屈曲の動作範囲(大殿筋の伸縮範囲)は同程度なので、骨盤後傾に作用する筋の影響は同じといえます。
洋式の椅子・テーブルの生活習慣が骨盤前傾の原因のひとつと考えます。
(2)-4 考察C … 女性に多い骨盤前傾
骨盤前傾姿勢は女性に多いです。
その理由は諸説あるようですが、私は(a)骨盤の形状の違い(腸骨上部が左右に広がっている etc)と、前述の(b)モーメント・バランスが関連していると考えますが、今は答えが出ません。
後日検討することとします。
m(._.)m
Block Start |feat: Asafa Powell, Trayvon Bromell, Christian Coleman ,Usain Bolt|
(3)骨盤前傾のメリット
アスリート以外の一般人にとって 骨盤前傾のメリットは、スタイル・姿勢の好みがあると思いますが、健康面では無いと思います。
いっぽうで、スポーツ競技者の内、短距離走競技や、サッカー・ラグビーなどのダッシュ走が必要な種目のアスリートや、「投げる」「打つ」の競技者には、骨盤前傾のメリットを活用する人がおられます。
その事例を以下に述べます。
(3)-1 股関節の可動域
日本整形外科学会等が発行する「関節可動域表示ならびに測定法」の股関節 参考可動域角度は以下のとおりです。
屈曲:0〜125deg
伸展:0〜15deg
股関節の伸展角度(後方への動作)は、屈曲角度に比べて極端に小さい。
(3)-2 メリット … 爪先接地や後方スウィングしやすい
短距離走競技や、サッカー・ラグビーなどのダッシュのランニングフォームは、爪先接地が基本です。
走法において、股関節前後開脚角度・ストライド・ピッチを変えずに 爪先接地するには、全身前傾または骨盤前傾しか解がありません。
(前述の股関節可動域に左右されないフォームや体質であるならば この限りではありません)
(また 前傾に伴う下半身重心の後方変位に対して 腕振り等による上半身のバランス調整が必要となります)
そして、図示のように 骨盤前傾すると 股関節伸展に拮抗する筋群の影響がそのままで、より大きな後方スウィングが可能となります。
(3)-3 活用例 … プロ野球 山本由伸選手
2024年春から、めでたくMLBに進出される山本由伸選手も骨盤前傾の姿勢です。
そして、骨盤前傾を維持するためのコンディショニングも平素からされているようです。
日頃からの骨盤前傾姿勢によって、腰椎後面にある脊柱起立筋や靱帯が常に短縮した状態にあり、逆方向(骨盤後傾)の力に対する剛性や引っ張り弾性が高く保たれていると考えます。
なので、一旦 骨盤後傾にすると 復元しようとする力が生まれます。
Strideフェーズで骨盤後傾すると、次フェーズでは SSCや伸張反射のように、スイッチを入れるように スムーズに骨盤前傾へ移行でき、下半身から上半身へ動作を繋げる、うねり上げるようなピッチング動作が完成します。
山本由伸選手の骨盤前傾の活用
Strideフェーズの骨盤後傾時(腰椎後彎)に発生する 前傾に戻ろうとする力(復元ポテンシャルエネルギー)を活用している。
骨盤前傾コンディショニングも合わせて実行することにより 効果を維持されている。
ただ、先発ピッチャーとしての球数に加えて、MLBの身体的負担を考慮すると、腰部周辺の負担蓄積が心配です。
(3)-4 活用例 … プロ野球 村上宗隆選手
ヤクルト 村上宗隆選手も 骨盤前傾姿勢です。
インパクトの直前、お腹を引き込んでベルトの位置が上がり、骨盤前傾から normal肢位として 腰椎の前後の筋を緊張させておられます。
上半身による「打つ」という運動を、腰・下半身の 剛性の高い 強固な軸で支えることによって、あの飛距離を生み出していると考えます。
村上宗隆選手の骨盤前傾の活用
バッティングのインパクトの瞬間に 骨盤前傾から後傾方向に力を入れることにより、バッティング軸の剛性向上に活かし、飛距離を生み出している。
(3)-5 活用例 … やり投げ 北口榛花選手
やり投げ 北口榛花選手も、骨盤前傾を意識したコンディショニングをされているとのこと。
(4)骨盤前傾のデメリット
(4)-1 骨盤前傾の関連疾患
まず、骨盤前傾の姿勢に関連する3つの疾患について述べます。
◆ 梨状筋症候群
◆ 脊柱管狭窄症
◆ 四辺形間隙症候群(QLSS :Quadrilateral Space Syndrome)
(4)-1-1 梨状筋症候群
◆ 梨状筋症候群 … 概要
坐骨神経は、骨盤からでて足へ向かいますが、その際、骨盤の出口のところで、梨状筋という筋肉とのトンネルを通ります。
この筋肉は通常柔らかいのですが、負担がかかって硬くなってしまうと、おしりに痛みを起こしたり、側を走る坐骨神経をつぶしてしまいしびれがでてきます。
(出典…日本脊髄外科学会)
◆ 梨状筋症候群 … 症状・障害
【 感覚神経 】 … シビレ、痛み(臀部〜下肢)。
◆ 梨状筋症候群 … 発生機序・一次的要因
【 発生機序 】 … 筋の硬化により神経を圧迫。
【 一次的要因 】 … 姿勢(長く座っている/中腰)、スポーツ、長時間の負担。
梨状筋の緊張により臀部や下肢への神経伝達不良が起こる
◆ 梨状筋症候群 … 運動療法・治療
ストレッチ。ブロック注射。
(4)-1-2 脊柱管狭窄症
◆ 脊柱管狭窄症 … 概要
加齢や仕事による負担、腰の病気などにより、背骨が変形することで脊柱管が狭くなります。
そのせいで、中の神経が圧迫されて血流が悪くなり、腰や足の痛み、しびれなどの症状が起こります。
(出典…ジョンソンエンドジョンソン)
◆ 脊柱管狭窄症 … 症状・障害 (腰〜下肢)
【 運動神経 】 … 筋力低下、間欠跛行(※)、排便・排尿障害。
【 感覚神経 】 … シビレ、痛み。
【 自律神経 】 … 循環障害(血行不良)。
※:間欠跛行
しばらく歩くと下肢(太ももからふくらはぎやすねにかけて)のしびれや痛みが出て歩けなくなり、少し休むと治まってまた歩けるようになるため、歩いたり休んだりすることを繰り返す。
(出典…ジョンソンエンドジョンソン)
◆ 脊柱管狭窄症 … 発生機序・一次的要因
【 発生機序 】 … 関節の変形(脊椎の変形)により神経を圧迫。
【 一次的要因 】 … 加齢、仕事による負担、腰の病気など。
腰椎の変形により 下肢への神経伝達不良が起こり、下肢の筋力発揮が損なわれたり、循環不良(血行不良)が起こる。
◆ 脊柱管狭窄症 … 運動療法・治療
トレーニング(腰回りの筋力維持)、ストレッチ。
ブロック注射。薬物療法。装具療法。手術。
(4)-1-3 四辺形間隙症候群(QLSS :Quadrilateral Space Syndrome)
◆ 四辺形間隙症候群 … 概要
※四辺形間隙症候群(QLS:Quadrilateral Space Syndrome)とは
肩の上腕骨、上腕三頭筋長頭、大円筋、小円筋との間で囲まれたスペースで、腋窩神経と後上腕回旋動静脈が通過しています。
野球の投球動作などスポーツに伴う繰り返す動きで筋の硬さが生じたり、外傷や手術などで Quadrilateral Space に癒着が生じると、神経や血管の絞扼が起きます。
その結果、症状として肩の外側全体的に広がるような鈍痛や知覚障害が出現したり、三角筋の萎縮が起きたり、肩関節外転障害が生じたりします。
(出典…藤沢ぶん整形外科)
◆ 四辺形間隙症候群 … 症状・障害 (肩〜上肢)
【 運動神経 】 … 筋萎縮、肩関節外転障害。
【 感覚神経 】 … 鈍痛、知覚障害。
◆ 四辺形間隙症候群 … 発生機序・一次的要因
【 発生機序 】 … 筋の硬化や筋の癒着により神経を絞扼する。
【 一次的要因 】 … スポーツによる動作の繰り返し、筋の変性(癒着)。
肩周辺の筋緊張により上肢への神経伝達不良が起こる
◆ 四辺形間隙症候群 … 運動療法・治療
ストレッチ、トレーニング(肩甲骨内側、背中のトレーニング)
(出典…佐久平整形外科クリニック)
(4)-2 骨盤前傾の症状・障害・デメリット
当店での統計に基づき、考えられる骨盤前傾の症状等を以下に述べます。
上述 3つの疾患の発生機序などとの関連性が大きいです。
(4)-2-1 症状・障害 … 全般
【 運動神経 】 … 筋力低下(下肢)。
【 感覚神経 】 … シビレ・痛み(腰〜下肢)。
【 自律神経 】 … 循環障害(臀部・下肢の肥大・むくみ)。
【 二次的影響 】 …
背中の張り(平背 flat back)、肩こり、胃炎などの内臓疾患。
股関節痛(大腿骨寛骨臼インピンジメント)。
梨状筋症候群。
鼠径部痛症候群(Groin Pain Syndrome)。
下腹部ポッコリ体型。
上述の一部につき 以下に補足します。
(4)-2-2 循環障害(臀部・下肢の肥大・むくみ)
骨盤前傾は 若い女性に多く見られますが、臀部や太ももが肥大している人が多いです。
原因は諸説あると思いますが、前述疾患例のように 腰椎の変形により 下肢脈管への神経伝達不良が起こり、筋の水分含有量が大きくなったり、むくんだりすると考えます。
太ももの太さ・お尻の大きさに お悩みの方は 骨盤前傾を見直されることをお薦めします。
(4)-2-3 【 二次的影響 】 背中の張り(平背, flat back) 肩こり等
骨盤前傾によって股関節位置が後方へ変位すると、当然 上半身が前に倒れそうになります。 これに対する 身体の前後バランスのとり方は様々です。
その一つに、背骨(胸椎)の生理的後彎が無くなるほど 背中を反ってバランスをとる、「平背(”flat back” “flattened back” “arched back”)」と呼ばれる姿勢があります。
過度な骨盤前傾
↓
股関節位置が後方変位
↓
上半身が前に倒れそうになる
↓
背中を反ってバランスをとる
この姿勢をとるために normal姿勢と比べて 背・首の筋が過度に緊張し、背中の張り、肩こり等が現れます。
その背筋の緊張により肩甲骨の動きも悪くなり、前述「四辺形間隙症候群(QLSS)」の症状が出る場合があります。
マラソン競技でも、長時間走っていると 腕がシビレてくる人がいます。それがQLSSです。
背中の張りから生じる症状は多様です。 下記に お悩みの方で 心当たりがある人は 骨盤前傾を見直されることを薦めます。
◆ 頚部筋緊張性症状(頭痛。眼精疲労。めまい。耳鳴り。難聴。奥歯痛。顎関節症 etc)
◆ 自律神経失調(内臓疾患、心肺機能の不調、睡眠障害 etc)
◆ 肩こり
◆ 腕のシビレ
(4)-2-4 【 二次的影響 】 股関節痛(大腿骨寛骨臼インピンジメント)
上述の股関節位置 後方変位の別な対処法として、下肢の軸を前方へ変位させる方法があります。
大腿骨は、股関節近くで「くの字」に曲がった形状をしているので、股関節を内旋させることによって 大腿骨の長軸(骨幹)が前方へ変位します。
出典…Cementless curved endoprosthesis stem for distal femoral reconstruction in a Chinese population: a combined anatomical & biomechanical study
股関節の噛み合わせがnormalと異なりますので、股関節痛(大腿骨寛骨臼インピンジメント)を訴える人が多いです。
若い女性の姿勢に この「骨盤前傾 + 股関節内旋」が多いです。
(そもそも女性は「前捻角」という大腿骨の角度が男性に比べて大きいので、股関節内旋位となり易い傾向がありますが)
股関節の痛みに お悩みの方は 骨盤前傾を見直されることをお薦めします。
(4)-2-5 【 二次的影響 】 梨状筋症候群
骨盤前傾の姿勢になると、股関節荷重を支える臀部筋の負荷バランスが変化します。
下図のように梨状筋(piriformis)の負荷も 骨盤前傾に伴って増大するので、前述の「梨状筋症候群」と同様の症状も二次的に発生します。
梨状筋症候群の症状(臀部〜下肢のシビレ・痛み)に お悩みの方は 骨盤前傾を見直されることをお薦めします。
(4)-2-6 【 二次的影響 】 鼠径部痛症候群(Groin Pain Syndrome)
上述のように、股関節の噛み合わせや 臀部筋の負荷バランスが normalではなくなることにより、鼠径部痛症候群も発症する場合があります。
↓以前のブログもご参照ください↓
鼠径部痛症候群の症状(脚の付け根・太もも内側の痛み。股関節を屈曲すると詰まる感じ etc)に お悩みの方は 骨盤前傾を見直されることをお薦めします。
(4)-3 アスリートの負傷・不調の例
↑以前のブログにも骨盤前傾のアスリートの例を示していますが、下記 4選手の例と、ニュースで よく見受けられる「太もも裏の肉離れ」についての見解を述べます。
◆ プロ野球 山本由伸選手
◆ プロ野球 村上宗隆選手
◆ 陸上競技 一山麻緒選手
◆ プロ野球 ダルビッシュ有選手[*追記]
◆ やり投げ 北口榛花選手[*追記]
◆ けっこう多い 擬似「太もも裏の肉離れ」
骨盤前傾のデメリット・負傷などについて述べますが、前述のようにメリットもありますので、良い悪いの判断はありません。
(4)-3-1 プロ野球 山本由伸選手
◆ 左腹斜筋の負傷
山本由伸選手は 時折 左の腹斜筋を傷めます(2018年、2019年、2022年)。
前腹斜筋・後腹斜筋は、前述のとおり 骨盤前傾/後傾に作用する筋であり、normal姿勢に比較してストレスがかかっていることが考えられます。
マウンドの硬さが違うなど、メジャーリーグ環境での活躍が少し心配です。
◆ 臀部・下肢の肥大
山本選手は、前述の骨盤前傾の特徴のひとつである「臀部・下肢の肥大」があります。
骨盤姿勢 normalの大谷翔平選手との比較を、ご参考まで。
(4)-3-2 プロ野球 村上宗隆選手
◆ 臀部・下半身の不調
村上宗隆選手は、時折 臀部・下半身の不調を訴えられます(2020年、2023年、2024年)。
骨盤前傾 特有の症状が出ているものと想像します。
● 股関節痛(大腿骨寛骨臼インピンジメント)
● 梨状筋症候群(臀部や下肢への神経伝達不良:シビレ・痛み)
● 鼠径部痛症候群
◆ 臀部・下肢の肥大
山本選手と同様に、村上宗隆選手にも「臀部・下肢の肥大」があります。
(4)-3-3 陸上競技 一山麻緒選手
以前のブログでも書きましたが、一山麻緒選手も骨盤前傾姿勢です。
◆ 骨盤前傾姿勢 … MGC2023
↑映像のように、2021年1月の大阪国際女子マラソンや 2017年の全日本実業団5000mでは、骨盤姿勢は normalですが、2023年10月のMGCでは骨盤前傾姿勢でした。
レース後、ご自身の Instagramで次のように表現されています。
マラソン後、筋肉が痛くて痛くて 普通にも歩けず 上り下りは横向きで ゆっくりゆっくり 知らない人から見たら私はただの酔っ払い (出典…Instagram Mao Ichiyama 一山麻緒)
◆ 肋骨疲労骨折 … 東京マラソン2023
2023年3月の東京マラソン前の記者会見で「(2022年)12月初めに肋骨を疲労骨折してしまった。5年ぶりくらいの故障だった」と発表されました。
骨盤前傾の症状である「背中の張り」と共に、前腹斜筋・後腹斜筋にもストレスがかかるので、筋付着部の肋骨に負担がかかったと考えられます。
◆ 下肢の不調 … 青梅マラソン2024
レース後には昨年から続く不調について語った。「今の段階では思うような走りができず、もがいている状態が続いている。足が抜けるっていう症状っていうですかね。右足がうまく運べもしないし、蹴りだせもしない。(症状は)11カ月くらいになります。練習でも出ているが、試合でもあったり。何とか改善しないかとやってきているが、本来の自分の心地よい走りができていない」と一山。
骨盤前傾の症状である 神経伝達不良が起こり、足への運動神経や感覚神経がうまく伝わっていないと考えます。
◆ 臀部・下肢の肥大
一山選手も、年齢的な成長もあるかもしれませんが、2017年、2021年に比較して「臀部・下肢の肥大」が顕著です。
(4)-3-4 プロ野球 ダルビッシュ有選手[*追記]
2024年 MLB開幕投手の ご活躍。
感動しましたぁ〜
ダルビッシュ選手のSNSでの情報発信は、プロフェッショナルな人が公開される中で 今までに無い質の高さがあり、後輩達への深い想いや配慮を感じます。
◆ 2016年末からの不調と骨盤前傾姿勢
2016年末に体調を崩されたことも公開されています。
ダルビッシュ選手も 過去から2018年シーズン序盤までの映像を見ると 骨盤前傾姿勢であることがわかります。
YouTubeでは下記の症状があったことを述べられていて、それらは前述の骨盤前傾の症状と合致します。
★ 腕の痛み
★ 呼吸の不調(※肋間筋/横隔膜の不調 → 胸髄/頚髄神経伝達不良 or 自律神経失調)
★ パニック(※自律神経失調)
★ イライラ(※自律神経失調)
★ 下肢の不調
◆ 骨盤後傾方向への矯正コンディショニング
そして 2018年半ば、「仙骨枕」を使った矯正を始められ 姿勢が変化しました。
(約6deg 後傾方向へ修正)
※投げた後の姿勢にも注目
※2021年の姿勢
◆ 骨盤前傾症状(flat back, 首・背中の張り)の残留
ただ、胸椎が生理的カーブよりもflatなのか 「首の張り」などの症状を訴えられています。
※火を使わないお灸
現在でも悩まれているか不明ですが、もっと より適確な頚胸椎コンディショニング等があるので、改善の余地があります。
◆ 四辺形間隙症候群(QLSS)
上腕(上腕三頭筋)の張りを訴えられることもあり、前述のQLSSの疑いがあることについて返信を送りました。
ダルビッシュ選手の例
★ 腕の痛み
★ 呼吸の不調
★ パニック
★ イライラ
★ 下肢の不調
★ flat back, 首・背中の張り
★ 四辺形間隙症候群(QLSS)
◆ 注意点 … 仙骨枕の効果
仙骨枕は画期的な製品であり 局所的矯正をするには有効だと思いますが、前述の骨盤前傾を活用するアスリートにとっては 仙骨枕はパフォーマンス面で逆効果ですし、前述のように 前傾ダッシュを必要とする競技への採用においては 吟味が必要です。
(4)-3-5 やり投げ 北口榛花選手[*追記]
【 北口榛花 選手 DL 連覇🥇 】
“6投目の北口”でまたもビッグタイトル「任せろって思った」五輪後発症の腰痛も緩和 スマイル戻った … スポニチ Sponichi Annex スポーツ
パリ五輪後 人生初の腰痛を発症
「体が動かなくて」「疲労がどっと来た」
練習を3週間も休んだ
反り腰・骨盤前傾のデメリットが現れたと考えますが リカバリして優勝するのが さすがッ👏👏👏
(4)-3-6 けっこう多い 擬似「太もも裏の肉離れ」
スポーツ選手の負傷のニュースで よく見受けられるのが、
「太もも裏の肉離れ」
というもので、その選手が1〜2週間ぐらいで復帰する例があります。
実際に肉離れした場合、内出血も伴い それほど早期に治癒しません。
肉離れ分類(MRIによる分類)
◆ Ⅰ型(軽症):
腱・筋膜に損傷がなく、筋肉内に出血を認める(出血型)
◆ Ⅱ型(中等症):
筋腱移行部の損傷を認めるが、完全断裂・付着部の裂離を認めない(筋腱移行部損傷型)
◆ Ⅲ型(重症):
筋腱の短縮を伴う腱の完全断裂または付着部裂離(筋腱付着部損傷型)
[出典…日本臨床スポーツ医学会]
激しいダッシュをしなければならない競技なら、尚更 完全復帰に時間がかかります。
しかしながら 当店でも、ニュースにあるような「ビリビリッとした放散痛が太もも裏に強く走る」と訴える患者さんとか、痛くて歩行が困難な場合でも、術後 かなり緩和される人がおられます。
手術をしたわけでもなく、10分前後では断裂した筋が元に戻るわけがないにもかかわらず。
「太もも裏の肉離れ」報道の中には、筋の断裂だけではなく 前述の梨状筋症候群や仙腸関節マルアライメントによる「肉離れ様」症状が含まれていると考えます。
今般、厚底シューズによる仙腸関節の影響がニュースになりますが、同様な視点で鑑別して アプローチするのが良いと思います。
(5)対策
骨盤前傾に対する対策として以下の二つがあると思いますが、(a)について主に考察し、(b)について補足的に述べます。
(a)骨盤前傾の症状を緩和し、できるだけnormal姿勢になるようなコンディショニングをする。
(b)ダッシュ走・中長距離走などで骨盤前傾を活用してパフォーマンスを最大化する方策。
(5)-1 汎用的対策
多くの人に適用できる汎用的対策2つを以下に述べます。
(5)-1-1 ハムストリングのトレーニング
前述のように、ハムストリングの筋力低下が影響するので トレーニングをお薦めします。
前述の特殊なトレーニングではなくても、階段の上りや登山やランジ運動などの、歩幅を前後に大きく開く運動をすることにより活性化できます。
(5)-1-2 太もも前面のストレッチ
前述のように、骨盤前傾に働く筋(大腿直筋・大腿筋膜張筋・縫工筋)の硬さが影響するので、ストレッチを心がけて欲しいです。
例えば 正座を1〜2分間(もちろん 方法は正座以外にもありますが)。
それ以上の長時間の正座は 血行不良に気をつけてください。
この正座で 太もも前面筋の張りを感じたり、十分な膝の折り畳みができない場合は、当該筋の硬さがある人です。
(5)-2 前提 … 身体特性の個人差
対策を考える上での前提がいくつかあり、その内の「身体特性の個人差」について述べます。
例えば 筋力は、運動不足の人と アスリートでは違いますし、以前のブログで一部触れましたが、アスリートも様々異なった身体特性を持っています。
具体例としては 下記のような個人差が頻繁にあります。
◆ 股関節周りの筋力が強いが 体幹のスタビリティが低い
◆ 股関節外転筋力は強いが 股関節回旋筋力は弱い
等々
様々な特性に対するアプローチが違うのと同様に、骨盤前傾に影響する筋や特性は 人それぞれ違いますので、見極めることが大変重要です。
「体幹を強くすれば良い」というような 力技(チカラワザ)的な方法がベストではありません。
(5)-3 前提 … 人種による差異と適確なドリル
対策を考える上での前提として「人種による差異」もあります。
人種により骨盤サイズが違ったり、関節・筋・靱帯の耐性なども異なります。
例えば、以下のアフリカ人のウォーミングアップドリルなどは、日本人が長時間 実行すると、股関節・臀部・ハムストリング・ふくらはぎなどを傷める人が多いと思います。
(「股関節屈曲角度」「膝関節伸展位」「スムーズな動作」がポイントです)
ただ、このドリル(膝を伸ばした状態で脚を上げる)は 走行時の臀筋・ハムストリングの伸張性収縮(Eccentric Contraction)に対応した適確なトレーニングであり、耐性作りに有益であることがわかります。
前述のように 骨盤前傾は 股関節・臀部・下肢等に負担をかけますが、アフリカ人は本ドリルを難なくこなせる耐性があるから ある程度の前傾は平気なのだと考えます。
(日本人は 容易に骨盤前傾を真似することはできない)
日本の陸上関連の動画でも ドリルを実行している様子を見ますが、「股関節屈曲角度が小さい」「膝がしっかり伸びていない」「膝伸展タイミングが遅い」など、なかなか難しいようです。
(5)-4 考察 … 骨盤前傾の採否とパラメータ
アスリート以外の一般の人は、生活の質を低下させる症状(腰痛、股関節痛、臀部や太ももの痛み、肩こり etc)があるならば、すぐに治す必要があります。
しかし、骨盤前傾を活用するアスリートは、競技パフォーマンスを最大化するために、身体特性などのパラメータのチューニングやトレードオフが求められます。
身体特性
◆関節/筋/腱/靭帯の耐性・柔軟性・弾性・発達【 関節の変形/癖。 接地衝撃に対する耐性。 長時間運動に対する神経伝達のスタミナ 】
◆神経伝達【 運動神経・感覚神経・自律神経。 感覚過敏/鈍麻。】
◆バランス能力
◆骨代謝
ランニングフォーム
◆上下動
◆ストライド・ピッチ
◆接地タイミング
◆バランス【 腕振り。Pitching. 】
◆癖【 Rolling, 内がえし、回内、Knee-in 】
◆体幹の安定性
◆関節負担・筋負担
◆伸展反射・SSC(Stretch Shortening Cycle)
ランニング・ギア【 シューズ・ウェア・テーピング・サポーター類 】
コンディショニング・ケア・トレーニング・栄養
短距離走のステップが時代とともに変化しているのと同様に、シューズなどのランニング・ギアも変化して、今後 驚くような 骨盤傾斜の最適解が現れるかもしれませんね。
(5)-5 妊娠後期の備え
妊娠後期には どうしても骨盤前傾となるので、腰痛・肩こりなどになりそうな人や 体力・筋力に自信の無い人は、妊娠後期以前に少しでも準備する方が良いです。
妊娠後期を迎えると、あまり無理な姿勢をとれなくなりますので。
もちろん 準備する内容は その人の筋力や特性によって違いますが、骨盤前傾の症状が酷くならないようにするためには 下記について 最低限 準備した方が良いでしょう。
◆ 脊椎(頚椎・胸椎・腰椎)を支持する筋力と脊椎の柔軟性
◆ 股関節周囲の筋力と股関節の柔軟性
当店でも、妊娠後期を迎えて 痛みが出てから通院される方が多いです。 無理の無い姿勢で施術し 緩和します。
(6)おわりに
腰痛は日本の国民病とも言われています。
骨盤前傾・反り腰は腰痛原因の上位にあり、椎間関節性の腰痛を生じると考えられています。
加えて、本投稿で述べましたように、腰以外の骨盤・下肢・背中などにも影響をおよぼします。
もちろん アスリートの人もアスリート以外の一般の人も、前述のように 様々な特性に対する見極め・分析ができれば 必ず改善します。
IT化やリモートワークが進んで、座る時間が増えたり 運動不足になったり、腰痛を助長するような環境にあるような気がしますので、本投稿が少しでも役立つヒントになればと願っています。
コメント