マラソン選手の身体の経年変化とランニングフォームの最適化(page1)

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目次 ( “ ” 付きは当ページ )

(1)まえがき

(2)考察①_股関節外転筋群の硬化と経年変化

(2)-1 股関節外転筋群とは
(2)-2 経年変化メカニズム(全般)

(3)考察②_股関節外転・Rolling

(4)考察③_膝関節内反・下腿骨湾曲

(5)考察④_足関節の内がえし・回内

(5)-1 内がえし・回内とは
(5)-2 経年変化メカニズム(内がえし)
(5)-3 経年変化メカニズム(回内)
(5)-4 内がえし・回内動作の悪影響と対策
(5)-5 接地時の標準肢位(案)[*追記]

(6)考察⑤_Toe-out変形

(6)-1 Toe-out変形とは
(6)-2 Toe-out変形がなぜ悪いのか
(6)-3 経年変化メカニズム(Toe-out変形)

(7)考察⑥_反り腰・腰椎前彎・骨盤前傾[*追記]

* * * * *

(8)なぜ細かいフォームに着目するのか

(9)注目する選手

(9)-1 エリウド・キプチョゲ(Eliud Kipchoge)選手
(9)-2 鈴木優花選手 第一生命 ← 大東文化大学
(9)-3 金光由樹選手 東海大学
(9)-4 不破聖衣来選手 拓殖大学[*追記]
(9)-5 星岳選手 コニカミノルタ[*追記]
(9)-6 田中希実選手 豊田自動織機[*追記]
(9)-7 ドルーリー朱瑛里選手 [*追記]
(9)-8 鈴木亜由子選手 日本郵便 [*追記]
(9)-9 Kelvin Kiptum選手 [*追記]
(9)-10 塩尻和也選手 富士通 [*追記]

(10)おわりに

 

(1)まえがき

とうとう、明日!(このブログを書いている日の翌日)東京マラソン2020です!
コロナウイルスの雰囲気を吹き飛ばすほど 盛り上がって欲しいですねぇ。

◆ 大迫傑選手について

私が注目している 大迫傑選手のランニング・フォームと足の癖・変形が、最近気になっています。

例えば、昨年 2019年9月に開催されたMGC(Marathon Grand Championship)でのフォームや、昨年出版された彼の著書「走って、悩んで、見つけたこと。」に掲載の画像などです(後ほど説明します)。

MGC (Animated GIF)

◆ 日本の女子マラソン選手について

また、話は変わって、日本の女子マラソンにおいては、初マラソンで優勝とか、2大会目・3大会目で記録達成・優勝とかありながら、その後 記録が伸びずに引退というケースが多いように感じます。

引退の理由としては、日本におけるマラソンは アマチュアスポーツなので、女性が人生をかけるには収入が少ないために辞めたり、結婚を期に引退される選手が多いのも事実だと思います。

でも 別な理由として、

マラソン・トレーニングの積み重ねにより 足が変形したり、蓄積した癖が悪影響をおよぼして、

タイムが伸び悩み、引退に至ってしまうことも多いと想像します。
(長期間の横断的調査ができないので定性的な意見でしかありませんが)

◆ ランニングはカラダに悪い? 市民ランナーの方へ[*追記]

後述のように、癖や変形に伴って痛みや傷害が現れることを 例を挙げて述べています。

トップアスリート以外で、趣味として運動を楽しんでいらっしゃる人も、癖や変形の程度が大きい人が長期にわたって走ることはカラダに悪いと考えます。

もちろん、その程度が小さい人は、心肺機能を高めることが出来たり その他様々なメリットがあります。

高齢まで長く競技を楽しんでいるマラソンランナーで、そのスピードが遅くない人は 癖や変形が小さいです。

異変などを感じる人は ご自身の状態を再確認されることをお薦めします。

◆ 本投稿では…

本投稿では、マラソン選手を見ていて常に感じている 以下の癖・変形・経年変化の原因と、悪影響を防ぐ最適フォームについての考察を述べます。

● 股関節外転筋群の硬化と補完動作・変形
● Rolling動作・股関節外転
● 膝関節内反・下腿骨湾曲
● 足関節の内がえし・回内
● Toe-out 変形
● 反り腰・腰椎前彎・骨盤前傾[*追記]

 

※注記

● 本投稿は、陸上選手の変形やトレーニング方法などを非難するものでは ありません。 陸上選手の記録更新の一助となればと願っています。
● また、本投稿はリンクフリーです。 画像も ご連絡いただければ 使ってもらってかまいません。 ただ、Mailでもなんでもけっこうですので ご連絡ください。
● 私自身 マラソンが好きです。 タイムは ぜんぜん冴えないですが、マラソン愛は けっこうあると思います。 本投稿は そのマラソン界に向けての私のメッセージです。

● [*追記]本サイトで用いる以下の用語は、日本整形外科学会等が1995年に改訂した『関節可動域表示ならびに測定法』にて定められた定義とします。

『内がえし(inversion)・外がえし(eversion)』
 … 3平面(矢状面・前額面・水平面)での複合運動
 
『回外(supination)・回内(pronation)』
 … 前額面での運動

2022年に上記の逆の定義へと改訂されましたが、その内容を反映していません(これまでの投稿との整合性が無くなるため)。

ですので、2022年改訂版の前書きにあるように、海外文献の表記と整合しない場合があります。

 

(2)考察①_股関節外転筋群の硬化と経年変化

 

(2)-1 股関節外転筋群とは

上図のように、ランニングのような 片足立脚の状態においては(図では左足で立脚)、身体の重心に加わる重量によって、股関節を中心として 遊脚側(図では右足側)の方向へ倒れる力が働くが、立脚側の股関節外転筋群が踏ん張ることにより バランスをとっている。

股関節外転筋群
中殿筋 gluteus medius、小殿筋 gluteus minimus 、大腿筋膜張筋 tensor fasciae latae ・腸脛靭帯 Iliotibial ligament (band)など。

そして、 走ったり 足を踏ん張ったりする頻度が高いスポーツにおいては、練習・トレーニングによって この外転筋群(ラテラル・ライン lateral line )や その前後の筋力がアップすると共に、

適切なコンディショニングをしないと 伸張性が低下し、いわゆる硬い筋肉となります。 そして 時には炎症や疼痛が発生します。

◆ 大迫傑選手の腸脛靭帯炎

大迫傑選手も、昨年 アメリカ Huntington Beach で行われた Surf City Half Marathon の前に  IT band injury を負っていたことが記されています。

大迫傑選手の著書のQ&Aにも以下のように述べられています。

著書より
Q : 腸頸靭帯炎になりますか? 克服法・予防法を教えてください。
A : これはもう我慢です。とにかく走りましょう。ちなみに僕は我慢して速いスピードで走ったら良くなりました(笑)。

 

(2)-2 経年変化メカニズム(全般)

◆ モデルと経年変化

この章で示す経年変化メカニズムは 私の推論です。  なお モデルは大袈裟に表現しています。

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前述のように股関節外転筋群等の伸張性が低下し硬くなると

★ 図(B)
股関節が外転して 股が左右に開いてしまい、(B)のままでは走れないので、それを補うために 

★ 図(C)
体幹部を左右に ゆする【 進行方向を軸として体幹部を Rolling(※後述)】

   または

★ 図(D)
膝関節を内反(※)すると考えます。
いわゆる「O脚」「ガニ股」。

(※)膝関節内反 … 本来、大腿骨と脛骨は 膝関節で真っ直ぐに つながっているのではなく、図(A)のように 5度程度 外側方向へ ズレています(生理的外反。 大腿脛骨角。 femoro-tibial angle:FTA)。
上記「内反」は反対の状態です。

出典…ResearchGate

★ 図(E)
(D)の動作を続けていると(E)の状態に遷移すると考えます。
「下腿骨の湾曲変形」と「足関節の内がえし・回内」(後述)です。

 
(なお、骨盤・腰椎をツイストして外転筋群の硬さを補完する走法もありますが、ここでは省きます)

◆ Rolling …「roll ロール」「pitch ピッチ」「yaw ヨー」について

◆ Rolling … クルマの例

出典:自動車情報・ニュース WEB CARTOP > 自動車お役立ち情報 > 【今さら聞けない】クルマの「ロール」「ピッチ」「ヨー」って何 ?[*追加]

 

(3)考察②_股関節外転・Rolling

◆ 大迫傑選手のRolling

前掲のMGC(2019年)と 大学1年生の2011年のフォームを比較します。

[*再掲図 修正]

Rolling が経年変化し、目立つようになってきているのがわかります。

MGCでの 大迫傑選手のフォームは、前掲図の(C)と(E)をミックスしたものと言えます。

ご自身もフォームについて 次のように述べられています。

「筋トレをやった結果、動きがダイナミックになってしまい、一歩一歩のダメージが大きくなってしまった気がします。中村選手、服部選手のふたりは、省エネの走り方だったので、コーチと相談していきたいと思います」

◆ 田中希実選手の股関節外転[*追記]

田中選手の 2020年と2023年のラストスパート時のフォームを比較すると、股関節が外転(左右に開脚)する変化が見られ、前掲図(B)から(D)あたりに該当すると考えます。

2022年「太腿の違和感」で棄権されたこともありました。

 

(4)考察③_膝関節内反・下腿骨湾曲

◆ 膝関節内反・下腿骨湾曲の例

前掲図(E)のように大迫傑選手も下腿骨の湾曲変形があり、他の選手にも しばしば 同様の傾向が見られます。

中央大学 五島莉乃選手
ドルーリー朱瑛里選手 五島莉乃選手

前述の経年変化メカニズムによって 下腿骨に荷重・ストレスが蓄積され、骨の変形・傷害が発生すると考えます。

◆ 設楽裕太選手の下腿骨骨折

設楽悠太選手は、2018年2月の東京マラソンで日本記録を樹立された際、下腿骨の疲労骨折を抱えていたことが知られています。↓

後述のように、設楽選手は 下肢の動作に癖がありますので、それが下腿骨にストレスを与えたのだと考えます。

ただ 設楽選手だけではなく、同様の疲労骨折はランナーに多く発生します。

◆ 田中希実選手の膝関節内反[*追記]

先日(2023年5月21日)に開催された セイコーゴールデングランプリ陸上2023横浜では、股関節外転に加えて 膝関節の内反が気になります。 前掲図(D)に該当します。
本来の膝関節は 前述のように生理的外反しており、逆になっていることがわかります。

簡便のため 大腿・下腿の中心線を参照しています(骨幹中心ではありません)

◆ サッカー 三浦知良選手の経年変化[*追記]

三浦選手の 2022年と2000年を比較すると、膝関節内反変形の経年変化が少し見られると思いますが、良い映像がみつかりません💦。 小学生低学年頃には これほどの変形は無いと類推しますので、経年変化と考えます。

前掲図(E)に該当し、「下腿骨の湾曲変形」があります。

【 ランニングフォームの最適化 ①】
ラテラル・ラインや その前後筋群に対する適切なコンディショニングが重要であり、実行することが可能です。

そうすれば、(1)外転筋群の硬化、(2)下腿骨の湾曲変形・疲労骨折、(3)膝関節変形、および(4)内がえし・回内の問題は軽減し、フォームの最適化につながります。

ランナーではない人も「O脚」「ガニ股」の予防・改善ができます。

 

(3)考察④_足関節の内がえし・回内

 

(3)-1 内がえし・回内とは

足関節の変位の名称は以下を参照ください。

◆ 大迫傑選手の経年変化 … 内がえし・回内動作[*追記]

大迫選手の学生時代2012年と2023年のフォームを比較すると、接地時の足底面角度・回内動作に経年変化が見られます。

◆ 設楽悠太選手の経年変化[*追記]

設楽選手の2014年と2021年のフォームも比較すると、足底面角度・回内動作に経年変化が見られます。

◆ 市田宏選手の例

ニューイヤー駅伝での 旭化成の市田宏選手について 接地時の足関節に着目すると、内がえし状態で接地し、体重が乗っていくにつれて回内肢位となり、その後 踏み切っています。

◆ 内がえし・回内動作のモデル[*追記]

下記のように、(1)下腿軸、(2)距骨・踵骨、(3)中足趾節関節(MTP関節 metatarsophalangeal joint)を簡略化したモデルを考え、内がえし・回内動作を考察します。

出典:人工関節ドットコム

◆ 「足底面角度内がえし角度下腿軸の傾きについて[*追記]

【 足底面角度(足底面〜地面間角度)】
 =【 内がえし角度 】
  +【 下腿軸の傾き】

【 下腿軸の傾き(下腿軸に垂直な面〜地面 間 角度)】は 前述「図(D)」の膝関節内反の角度、Rolling角度 等からなります。

 

(3)-2 経年変化メカニズム(内がえし)

内がえし動作が起こる原因は、解剖学的な筋肉の付き方・筋走行が原因と考えます。

下図のように、 母趾を引き上げる筋肉(伸筋)の作用や 靭帯・関節構造の特性により内がえし傾向となります。

内がえし変形に なり難い生活動作をしていたり、予防するコンディショニングをしない限り、現代人の ほとんどの人に内がえしの癖があります。

足関節の捻挫が、『外がえし捻挫』に比して『内がえし捻挫』が圧倒的に多いのも、この癖によるものと考えます。

 

(3)-3 経年変化メカニズム(回内)

回内動作をしてしまう原因は、下記の二つの運動エネルギーに対して足関節の支持筋力が負けてしまうからだと考えます(二つのいずれか または両方に対して)。

原因①:足底面角度により生じる運動エネルギー(内がえしの弊害)
内がえし肢位で 足底の外側から接地すると、接地部分を中心として(前額面上で) 外側から内側へ回転する運動エネルギーが発生し、回内方向への作用力となる。

接地時の足底面角度が大きいほど 重心位置が高く(位置エネルギーが大きく)なるため、発生する作用力も大きくなる。[*追記]

下記の論文にも 足部外側接地と傷害との相関に触れられています。[*追記]
辻󠄀本典央 氏 名古屋大学大学院 博士論文『ランニング時における 後足部回内モーメントの発生要因』
 

原因②:Rollingの運動エネルギー(Rollingの弊害)
前述のRolling動作をする人の場合、進行方向を軸とした回転運動エネルギーが発生し、接地後の回内運動への作用力となる。

前述の辻󠄀本典央 氏の論文でも、Rollingが回内動作に与える影響について 下記のように述べられています。

『接地直後の床反力の水平面成分由来の後足部回内モーメントは、接地直前の(※Rolling動作による)後足部側方速度の大きさに依存していた』[*追記]

ランニングは前方へ進む運動 横方向の動作はエネルギーロス
上述の、進行方向ではない この横方向(前額面)の動作の繰り返しは 歩行・走行にとっては本来不必要で、エネルギーロスを生じる運動であり、余分な疲労が蓄積し、場合によっては 関節痛や骨・筋の炎症などが生じる。 

 

(3)-4 内がえし・回内動作の悪影響と対策

歩行・走行時の内がえし・回内動作により 下肢に生じる傷害・悪影響については、様々な論文・書籍などが発表されています。 

◆ シンスプリントの発生.… 仲田和正医師の著書より[*追記]

西伊豆健育会病院 仲田和正医師の著書「手・足・腰診療スキルアップ」で、回内動作が引き起こすシンスプリントの機序について わかりやすく述べられています。

出典:西伊豆健育会病院 仲田和正医師 著「手・足・腰診療スキルアップ」

シンスプリント(shin splint 過労性脛骨骨膜炎)
「走る際、足を外側に返すような走り方(足の回内)をする人に起こる。
ひらめ筋は脛骨の後方内側に付着しているが、この筋肉により脛骨が引かれることにより脛骨の下1/3で後方内側に痛みが起こる。」

◆ 疼痛発生 … 市田宏選手の例

脛の内側に磁気シールのようなものを貼っておられることから、市田宏選手は 骨性や関節の痛みか 筋の疼痛をかかえておられるのかもしれません。
 

◆ 足関節変形 … 大迫傑選手の回内変位

大迫傑選手も 前掲のMGCの画像に見られるように 同様の接地動作をされています。

そして、大迫傑選手の著書にある以下の足の画像です。

前述のように内がえし・回内の接地を繰り返すことにより、経年変化で この回内肢位になると想像します。 (画像では 特に左足の変形が大きいでしょうか)

 

◆ 設楽裕太選手のフォーム 東日本実業団対抗駅伝 [*2021年12月3日追記]

次のgif画像は、2021年11月3日の東日本実業団対抗駅伝での 設楽裕太選手のフォームです。

図のように、右足に加えて 左足も Toe-out と回内接地の動作なので、明後日の福岡国際マラソンも厳しいレースが予想されます。

でも、設楽裕太選手は、2018年の東京マラソンで 1億円の報奨金を獲得した時、足が骨折していたことが発表され、たまげたように、サプライズや魂のこもった走りをされるので、期待しますッ♪

◆ 筋損傷 … 設楽裕太選手 左ふくらはぎ損傷 福岡国際マラソン[*2021年12月追記]

設楽悠太左ふくらはぎ痛め20kmで途中棄権「次頑張ります」/#福岡国際マラソン https://rikujyokyogi.co.jp/archives/52770
🏃‍♀️
設楽悠太 選手の次に期待しまッす🏁
優勝の #マイケルギザエ 選手 #細谷恭平 選手も ゴール後 立ち上がれないため ヒーローインタビュー無し♫
🏃‍♂️
ラストスパート合戦 力が入りましたねぇ〜

 

◆ 五味宏生トレーナーの指針[*追記]

陸上トレーナーとして活躍されてます 五味宏生トレーナーのInstagramでも、「胴体に対して足が内側に入り過ぎる(前述の体幹Rolling、膝の内反)」「足の外側接地」「傷害の発生」についても述べられています。

怪我とランニングフォームの関連を考えようと思った時は前方、もしくは後方から選手を観察することが多くなります。

胴体に対して内側に足が入りすぎていたり、接地した瞬間に骨盤の動揺性が大きかったり、といったエラーが起きていないか、を観察します。

地面へのコンタクトが足の外側部からになること自体は問題ありませんが過剰にそういった動作になりすぎると、その後の母指球方向への荷重移動も含めて腓骨筋腱や内果後方部にある腱等が痛む原因となることがあります。

その現象が起こっている原因は色々な理由が考えられます。

先程いったような脚が内側に入りすぎてしまう結果として外側接地になってしまっているとすれば原因は足部ではなく骨盤や股関節の筋力、となります。

痛い箇所自体を変えることで解決することは実は少なくて全体をみることがとても大切だな、と思います。

ランナーの方に「じゃあランニング中に足を外側からつかないように内からつくように意識すればよいですね」と言われることが多いのですが、それはやめた方がよい、と答えています。
筋力や筋を使うタイミングなどが原因でそういった現象が「起きざるを得ない」ので意識をしてその動作を変えようと思っても無理だからです。

ランニングという複雑な動作中にそれを意識し続けることは不可能です。
だからこそ、それを改善する為により単純なトレーニング、エクササイズが重要になってきます。
ランジ動作や片足スクワット時に外側で荷重する傾向があるのにランニング中だけそれがなくなるわけがありません。

ランニングフォームが自然とよい方向に変わることを目標に、走る以外のエクササイズにもしっかりと取り組んでほしいな、と思います。

◆ 回内対策 … シューズによる対処と問題点

ランナーの回内肢位に対して、次の asics 社のようなシューズで対処するのも、一般ランナーにとっては一つの手ですが、アスリートの方は適切なコンディショニングやリハビリトレーニングをするべきでしょう。

なぜなら、前述経年変化メカニズムを論拠とすると、足首だけの問題ではないからです。

◆ 回内指標 … 理学療法士Marcos Babier 氏[*追記]

理学療法士 Marcos Babier 氏は「pronation (回内)15%」が ideal とされています
15deg? tanθ?

15%を超過すると
foot and ankle have problems stabilizing the body, and shock isn’t absorbed as efficiently- which can lead to injuries.

◆ 回内動作のメリット? … 足底アーチによるスプリング効果[*追記]

接地時に起こる 足底アーチのスプリング効果(縦アーチと横アーチの沈み込みと復元からなる弾性)は、しっかり回内動作をして「べたっ」と足底を付ける方がより活用できるように思いますが、過度な場合、エネルギーロスや不調の恐れが大きいわりに そのメリットがそれほど大きくならない(※コスパが悪い)と考えます。
 

【 ランニングフォームの最適化 ②】
上述のメカニズムや影響を考慮して、内がえし変形や回内位に なりにくくするコンディショニングやトレーニングがあります。
適確に実行して、上述の問題を軽減し、効率的フォームを実現しましょう。

 

(3)-5 接地時の標準肢位(案)[*追記]

上述の経年変化が無ければ、あるいは 癖がつく前の段階では、接地時の標準肢位は どのようなものか考察しました。

ただ、多様な生活習慣により形成されるものなので、網羅的な「標準」を策定することには無理があります。

本来 カテゴリ別に考えることが望ましいですが、単純化した目安を考え 今後 見直すこととします。

あくまで私見ですが、前額面での標準肢位(案)は 下図のように考えます。

内がえし:5deg程度
 + 下腿軸の傾き:3deg程度
   = 足底面角度:8deg程度

◆ 根拠:内がえし① … 学会文書

「内がえし:5deg程度」の根拠は、日本整形外科学会等が発行する「関節可動域表示ならびに測定法」の内がえし・外がえしで定義する 参考可動域の中間位としました。

◆ 根拠:内がえし② … 子どもの姿勢

もう一つの内がえしの根拠は 次のような 子どもの映像によります。
(まだ癖が強くない、経年変化も小さい子ども)

サッカー等をやっていそうな速い子を除くと「内がえし角度:5° ±3°」ほどです。

出典:【かけっこ教室】誰でもかけっこが速くなる方法。かけっこトレーニング!

ただ、こういったアクティビティに参加する子達は 極端に運動不足な子は含まれていないと考えられますので、「児童の標準」とは言えないですが。
 

◆ 根拠:下腿軸の傾き … Mikulicz line

Mikulicz line(ミクリッツ線。下肢機能軸)の傾きを 3deg(normal) とする文献が何点かありますので、下腿軸とは若干異なりますが 採用しました。

出典:Nuno Marques Luís and Ricardo Varatojo “Radiological assessment of lower limb alignment”

 

(4)考察⑤_Toe-out変形

 

(4)-1 Toe-out変形とは

Toe-out変形とは、下腿が外旋して(膝関節外旋)、爪先が外側を向いている状態です。

次のブログに色々と述べています。

 

(4)-2 Toe-out変形がなぜ悪いのか

Toe-out変形が なぜ悪いのかは 前述ブログに記載しており、様々なアスリートが負傷していますが、マラソンや走行に際しては 膝から末梢にかけて 下記の不調が考えられます。

● 膝関節傷害(半月板・靱帯損傷等)
● 筋への神経伝達不良(筋伸縮不調・スパズム等)
● 血管壁への神経伝達不良(血管拡張収縮・循環不調)(長時間の有酸素運動で不利)

◆ アスリートの例

Toe-out変形の傾向があるアスリートと負傷 例
● 設楽悠太 選手 … 両側Toe-out + 右Knee-in → 右下腿骨疲労骨折・左ふくらはぎ損傷
● イチロー 選手 … 右Toe-out → 右ふくらはぎ損傷
● 久保建英 選手 … 右Toe-out → 右膝関節損傷
● 錦織圭 選手 … 右Toe-out → 右足関節捻挫
● 川内優輝 選手 … 右Toe-out → 右ふくらはぎ損傷

逆に Toe-out変形が無く 下肢の不調はないと思われるアスリート 例
(アクシデントによる怪我を除く)
● サッカー 岡崎慎司 選手
● MLB 大谷翔平 選手

◆ 設楽悠太選手の例

設楽悠太選手の前述の福岡国際マラソンの負傷は、Toe-out 変形の影響もあると考えます。[*追記]

右下肢の Toe-out 変形について ブログに書いていますので ご参照ください。
(↓ 画像をクリック ↓)

◆ 設楽悠太選手の分析 … 後藤一志トレーナー [*2020年6月追記]

トレーナーとして活躍されてます 後藤一志トレーナーのfacebookでも、設楽悠太選手の右下肢の変形について投稿されました。

床文化の中で生活する日本のアスリートは今のような自宅待機、自粛生活が長くなるほど、この選手の右脚のような動きが増えてくる。(knee in toe out)最上町社協として近日アップする「おしり戦車」をやっといてほしい。

後藤 一志さんの投稿 2020年3月27日金曜日

◆ MLB イチロー選手のふくらはぎ損傷[*追記]

MLB イチロー選手もToe-out変形があり、ふくらはぎ損傷がありました。

◆ サッカー 久保建英選手の膝関節損傷[*追記]

久保建英選手は 2021年10月に右膝関節を損傷され、しばらく戦列を離れました。

映像は2020年のものですが、右側にToe-outの癖があります。

Toe-out変形は、短距離走とかであれば影響は小さいですが、サッカーは フルで出場すれば10km前後走るスポーツですので、さらなる経年変化が心配です。

サッカーは、インサイドキックなどで どうしてもToe-outになりますが、後述の岡崎慎司選手のような例もあります。

◆ テニス 錦織圭選手の足関節不調[*追記]

錦織圭選手のToe-outについて 以前のブログで書きました。

錦織選手は、長らく右足首にサポーターを巻いておられ、残念ながら 2022年秋に足関節捻挫されました。

◆ 【 参考 】不調になり難い サッカー 岡崎慎司 選手[*追記]

逆に Toe-out変形の小さい選手として、サッカー 岡崎慎司 選手などを前述ブログにあげています。

衝突などのアクシデント以外では 膝から末梢にかけての 大きい負傷も無く、長く競技生活を続けておられます。

◆ 【 参考 】不調になり難い MLB 大谷翔平 選手[*追記]

大谷選手も、アクシデントではない限り 下肢の不調が無いと思います。 ピッチングの軸足である右下腿骨や足首あたりが少し気になりますが、Toe-outの癖は ほぼありません。

(2021年の映像)

 

(4)-3 経年変化メカニズム(Toe-out変形)

◆ 洋式の生活・和式の生活

前述のように、後藤一志トレーナーは この変形の原因を「床文化」とされていて、私も同意見です。

以前のブログでは次のように表現しました。

畳部屋のような和式の生活様式が無くなり、和式の便器に座り込む動作なども無くなった、洋式の生活習慣などがこの症状の根本的な原因だと思います。
ですから、結構多くの方が潜在的にいらっしゃると想像します。

 

◆ ハムストリングの影響[*追記]

また、この変形の もう一つの原因としては、類似の学術論文より、

ハムストリングの外側筋が内側筋に比して優位に活動するからだと考えます。

● 最大等尺性膝屈曲運動時のハムストリングスの筋活動について(東北大学…大西秀明氏 et al.)
● 下肢アライメントと歩行での内側・外側ハムストリングス筋活動比の関係(昭和大学…島田周輔 et al.)

【 ランニングフォームの最適化 ③】[*追記]
上述のメカニズムや 不調になり難いアスリートの動作に着目すると、Toe-out変形に なりにくくするコンディショニングやトレーニングがあります。
適確に実行して、上述の問題を軽減し、効率的フォームを実現しましょう。

 

(7)考察⑥_反り腰・腰椎前彎・骨盤前傾[*追記]

走るスポーツをハードに行なっている若い人は、その年月とともに骨盤が前傾(反り腰・腰椎前彎)してゆくケースが多く、また アスリート以外の 一般の若い女性にも多く見られます。

次のブログで、「骨盤前傾」が引き起こす腰痛やそれ以外の影響、「骨盤前傾」の原因、メリット・デメリット、対策などについて述べていますので、ご参照ください。

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